若々しい新茶には伝統の小さなお干菓子を添える
春ってこんなに雨が多かったかなあと思うのは毎年のこと。
キラキラ光った空気のせいか晴れの日の印象が強いのだけれど、
甘雨・瑞雨(ずいう)・菜種梅雨と幾多の呼び名を持つほどに、
実際は春の雨は多いもの。
それらはどれも穀物にとっては恵みの雨で、みんなたっぷり潤って
青々とし始めたら、そう、いよいよ初夏である。
金目鯛に筍にアサリ…。旬のものがいろいろある中でも
やっぱり清々しい緑鮮やかな新茶が気になる。
そして、新茶とともに思い出すのは、お干菓子あれこれ。
友人にうれしそうにお干菓子の話をすると、
あんまり食べたことないなあ、茶道用でしょ、
それかお年寄りの好きなもの……と返ってくることが多い。
それはそうかもしれないけれど、私は普段からお干菓子党なのだ。
それも、お湯呑みの横にちょこっと添えて、カジュアルにいただくことが多い。
たとえばこちら。諸江屋の「万葉の花」。
しっとりした粒あんを和三盆糖で包んだ生落雁で、
愛らしい姿に反して食べ応えも充分あるので、おやつにもぴったり。
洋菓子に押されてなんとなく肩身の狭そうな和菓子の中でも特に、
人気があるとは言い難い落雁だけれど、
「とにかく食べてみて! まずは食べてみて!!」という強力プッシュに
根負けして口に運んだ途端、「あー、私、日本人だったんだなあ」と
しみじみした人を私はたくさん知っている。
さすがに、万葉の歌人たちに愛された花を名に持つお菓子だ。
可憐で芯の強い女の人のような、深みがあると思う。
そしてどんな種類のお菓子であっても、
おいしければ皆ちゃんとおいしいと言ってしまう。
ね、そうでしょう? ふっふっふ。
そんな時、万葉の花のような風情とはほど遠く、
ついつい得意げな表情をしてしまう私である。ああ、残念。
それから、ばいこう堂の「霰(あられ)糖」。
薄桃色の縁取りのある和紙をめくると、中にはまあるいお砂糖玉。
口当たりの優しいなめらかな様子は、絹にたとえられている。
しっとり、甘い。そしてふうっと消えてしまう。
1年を通していつ食べても良いのだけれど、この小さな玉が
霰という名を付けられていることがよく分かる儚さだ。
そんな繊細なおいしさのお菓子なのに、
実は、私が霰糖を1番良く食べているのは、職場だったりする。
開けるときも口の中でも音がせず(つまりこっそりつまめて)、
かわいくておいしくて元気が出る、これ以上の相棒は見つけられない。
大人気スタイリストの菊池京子さんもお好きだという情報を添えれば
和菓子嫌いのお嬢さんたちもついつい手を伸ばす。
そして、また今日も霰糖のファンが増えていくというわけです。
「和三盆」を「和三宝(わさんぼう)」と書き記す
ばいこう堂のその看板に、偽りなし。
さらに思い出すのは、鳩サブレー(「サブレ」の後は、のばすのが正解!)で、
有名な豊島屋の隠れた人気者「小鳩豆楽(こばとまめらく)」。
小さな鳩の形をした豆粉の落雁で、ふっくりコロコロした鳩を口に入れると、
ぽこっとお豆の風味が口に広がる。
素朴で懐かしい感じの珍しい落雁で、幅広い年齢層に人気だとか。
この小鳩豆楽には小ぶりな箱入りと紅白の缶入りがあって、
私は普段使いのため箱入りを購入するのだけれど
いつか誰かのお祝いにこの缶入りを贈りたいとひそかに狙っている。
軽いので、鎌倉土産にもおすすめだ。
お茶はもちろんコーヒーにも合うこの鳩さんに、
にっこりしてくれる顔がいくつも思い浮かぶ、うれしいお菓子である。
日本茶だけでなく、ダージリンのファーストフラッシュも気になるこの季節、
小さなお供があるとお茶の時間はますます充実する。
ゆっくり丁寧に淹れたお茶を静かにいただいても、
パパッと淹れてごくごく飲みほしても、お茶は人を元気にすると思うのだ。
皆さま、どうぞ召し上がれ。
【今回ご紹介したお菓子やさん】
・諸江屋 http://moroeya.co.jp/
・ばいこう堂 http://www.baikodo.com/
・豊島屋 https://www.hato.co.jp/