春に誘われて乙女な和菓子をいただく。
気が付けば、いつも甘いものがそばにあった。
うれしいときにはその幸せをもっと膨らませるために、
しょんぼりしたときには元気になるお薬として、
私はいつも甘いものを食べている気がする。
こちらのコラム、「あまいお菓子のおたのしみ -昼下がりの甘味-」は、
そんな私、高橋真生(まい)の、3歳になったばかりの息子との
てんやわんやの日々を安らかにしてくれる、お菓子のお話です。
皆さま、どうぞごひいきに。
さて、それでは早速、お菓子のことを。
ぷっくりと膨らむ花々の蕾は明るく、
それらはほどければ辺りにいい香りを贈ってくれる。
空気はふうわりと緩み、肌に触れるコットンやリネンの軽さも心地いい。
ああ、春だなあ、と思う。
でも、私にとって、春を1番先に知らせてくれるのは、実は和菓子。
それも、ちょっと贅沢な上生菓子(じょうなまがし)。
上生菓子というのは、その季節にしか作られない、
「銘」という名のついた生菓子のことだ。
柳は緑、花は紅。
愛らしくも爽やかな桜と柳の色をしたこのお菓子は、
老舗・鶴屋吉信の「都の春」。
ふんわりした風情に呼吸は深くなり、
口に運べばすぅっと溶けるような儚いきんとんと
しっかりした小豆の食感の妙。
きゅーん。
我が家の3歳男児でさえも「きれいだねえ」なんてときめいてしまう、
和菓子の技はすなわち、始まったばかりの新年度に追い立てられ、
眠気や花粉と戦う母親を乙女に変えて(戻して!)しまうものでもある。
続く2つは、共に長野のお菓子。
開運堂の「白鳥の湖」と小布施堂の「栗ビスコッティさくらソルト」。
面白いのは、両方とも外国のお菓子を元に作られていること。
白鳥の湖の元になったのは、その昔スペインの修道院で
考案されたお菓子「ポルポローネ」。
何でもポルポローネは、食べ終わるまでにその名を3回つぶやけば
幸せを運ぶと言われている縁起物なのだとか。
そんなお菓子にデザインされたのは、安曇野の川岸に飛来する優雅な白鳥!
箱に描かれた絵は写実的なのだけれど、
お菓子の白鳥はなんとも愛らしい姿をしている。
唇に触れるとほろりと溶けるようにほどけるポルポローネに、
乙女心をくすぐる白鳥。
ふんわり甘い白鳥は、未来に幸せを運んでくれるだけでなく、
口に含んだ一瞬もまた幸せにしてくれる。
小布施堂の栗ビスコッティは、ビスコッティと言っても
アーモンド度は低く、食感もサクサクほろほろ。
私と息子のお気に入りは、耳の部分。
ガリガリボリボリという音と、
繊細な桜の香りはどう考えても意外性ありという感じなのだけれど、
普段のおやつという感じがしてくるのが好き。
外で食べてもおいしいかもねーなんて言いながら
あと一つ、とひらりと手が伸びたりして。
桜の花と葉の塩漬けを使った桜の餡の入ったビスコッティは
コーヒーにも紅茶にも緑茶にも合う。
栗ビスコッティは、ハードに見えて柔らかく砕け、
和菓子と洋菓子の間をいくような、
ちょっと不思議な、和洋折衷ビスコッティだ。
最後は、名古屋・浪越軒の「どうぶつえん」。
写真の、小さな動物たちを見つめていただきたい。
あらー、と思ってしまうでしょう。
ふわっと、笑みがこぼれるでしょう。
思い起こせば、夜泣きと授乳で24時間体制だった頃は、
おなかが空き過ぎて朝ご飯前におまんじゅうペロリという生活だった。
だからこそ、思うのだ。
やさぐれた私を和ませる表情、よし。
朝っぱらからおまんじゅうをつまみ食いする罪悪感が少なくて済む小ささ、よし。
そして、小さなお菓子は、なぜかお茶を淹れた瞬間
子どもに呼ばれてしまうお母さんの必須アイテムに違いない、とも。
熱々のお茶は飲めずとも、小さなお菓子を口に放り込んで
子どもの元へ向かうこともできるし、冷めたお茶の彩りにもなる。
お乳大好きだった息子が、もう一緒におまんじゅうを食べられるくらい
(虎視眈々とおまんじゅうを狙うくらい!)大きくなっているのが
感慨深いものがある。
息子よ、おぬしのお乳の原料はおまんじゅうでした――。
気もそぞろに春を待ちながらも、
要領の悪さゆえか、なかなかそのおめでたさを堪能できずにいる私が、
お皿の上のお菓子1つで、いっぺんにうららかな気分になってしまう。
テーブルの上の幸せの種は、
誰でもあっという間に乙女にしてくれるものなのだ。
皆さま、どうぞ召し上がれ。
【今回ご紹介したお菓子やさん】
・鶴屋吉信 http://www.turuya.co.jp/
・開運堂 http://www.kaiundo.co.jp/
・小布施堂 http://www.obusedo.com/
・浪越軒 http://www.namikoshiken.co.jp/