一本の糸の旅 Vol.4 経糸(たていと)で縞をつくる

綿から糸になり、植物の力を借りて染まった糸は、いよいよ布になる準備段階に入っていきます。

布になる第一段階は、楽しくもあり悩ましくもある、布の模様(私は縞(しま)と呼んでいます)、デザインの考案です。

縞の染め方は色々あります。
染める前に糸を決めてしまって、糸の量を計算し、その量に合わせて染める場合。
おおまかな縞のイメージを持って、だいたい必要であろう量糸を染める場合。
そして、染めたい色や染料でまとまった量を染めておく場合。

私は二番目の、織りたい柄や使いたい色のイメージを持って、ある程度のまとまった量の糸を染めておくことが多いように思います。
今回も、栗で染めた糸と以前に染めた糸との組み合わせで、縞を決めていきます。
irazumusu_04_01
工房デッキの外机で

染まった糸を見るとき、光によって色の見え方が違ってきます。
工房の灯りと、自然光のもとで見るのでは、色彩や濃淡が違って見えるので、縞をたてる時は、必ず自然光のもとで色を見るようにしています。

縞だて(デザインの考案)は、大まかな柄のイメージをもとに、経(たて)の柄=縞を決定します。

縞の決定とは、例えば茶色が3本、青が2本といったように、縞のパターンを決定していくことです。
この縞により、必要な糸の量が色ごとに決まっていきます。
縞によって、どんな布になるのかが決定されるので、この作業はとても悩ましいもの。
一本分太くするのか、細くするのかで一日中悩むことがあります。
irazumusu_04_02
糊つけ:糊つけ日和の糊つけは、パリッとしてうれしいもの

縞が決まり、必要な糸の量が計算できると、次は糊付けです。

紡いだ糸は、染色を通して撚りが止まり強くなっていますが、それだけでは機にかけ、織っていくには弱すぎます。
更に糸を強くするために、経糸に糊を付けます。糊は小麦粉をお湯で溶いて作ります。
糊を付けた糸は、パリッと乾かしたいので、風のある天気の良い日が最適です。
しっとりとした曇り空の多い丹波の冬は、なかなか良い日が見つからず、無理やり室内干しをすることもしばしばあります。
irazumusu_04_03
冬の丹波の朝:糊つけ室内干しの天気

irazumusu_04_04
経糸巻:今回も、不揃いです。反省。。

パリッと乾いた経糸は、手で揉みほぐして糸枠に巻いていきます。
この経糸巻きの作業も、次の整経の際にするすると糸が出やすいように巻くのが良く、真ん中がふっくらした形になるのが理想ですが、私の場合なぜかいびつな形になることがあり、経糸を美しく巻くのは今でも課題です。
irazumusu_04_05
整経:縞が見えてきます

経糸が巻けたら、整経を行います。
整経とは、織りたい長さの経糸を縞の順に並べていく作業の事です。長さ2メートルほどの整経台に、糸を縞の順に巻いていきます。
ここで、縞の順番を間違えると後でとても面倒な作業が加わるので、表を作り確認をしながら慎重に行います。
気を引き締めて行う作業ですが、糸の本数が増えていくと、縞がどんどん見えてきて出来上がりのイメージに近づくようで、“布になっていく”という実感が湧いてきます。
irazumusu_04_06
仮筬:筬に糸を通します

その後、筬(筬に)糸を通し“ちきり巻”に備えます。この筬通しの作業は“仮筬(かりおさ)”と呼ばれ、使用予定の筬に糸を通していく作業です。縞の順に糸を通していくので、間違っていないかの確認ができます。
ここで使う筬(おさ)とは、トントンと打ち込む役割をするもので、細い竹が櫛のようにたくさん並んだ道具です。
一尺に何本羽(は)が並んでいるかにより、経糸の密度が決まり、同時に布の幅もきまります。
どの筬を使うかは、どんな布を織るのかによって違ってきます。
irazumusu_04_07
ちきり巻:糸を長く張って巻いていきます

整経のあとは、「ちきり巻」という作業です。これは、機の一部である太い棒(ちきり)に整経した経糸を巻いていきます。
糸に均一なテンションをかけながら巻いていくので、ちきり巻用の大きな道具もありますが、私は家の柱に糸を巻きつけて、引っ張りながら巻いていきます。
手ですると、均一さが失われてしまいそうですが、身体で糸の張りを感じながら、身体全体を使って行う作業なので、微調整がききやすく“巻いてる!”という感覚が面白く、織る予定の幅で縞がはっきりと見えてくるので、ここでも“布”に近づいていっているという実感のある、楽しい気持ちになる工程の一つです。

ただ、力いっぱい引っ張りながら巻いていくので、翌日は必ず、背中や腕が筋肉痛になります。
そして、動物の多い我が家。糸にいたずらされないように、ちきり巻の時は必ず猫を追い出して行います。
irazumusu_04_08
巻き終わりました!

このように、改めて綿から生まれる布の旅を追いかけると、“織る”工程に行き着くまでに、時間や手間がかかっていることが分かります。
ただ、行っている本人は、一つの工程を終えると、次の段階が見えてくるので、やっていて面倒くささは、感じません。
同じことを延々とするのではなく、色んな工程を順番にこなしていくため、飽きずにできているようです。

さて、糸の旅も終盤に近づいてきました。次回の旅は、機に上げ織る工程をご紹介したいと思います。

irazumusu_04_09
夕焼け空:大好きな風景。大好きな色

「一本の糸の旅」の一覧

一本の糸の旅 Vol.6 糸から布へ。布から暮らしの中へ。
一本の糸の旅 Vol.5 機に上げて「織り」へ
一本の糸の旅 Vol.3 染める
一本の糸の旅 Vol.2 紡ぎ、染めるまで
一本の糸の旅 Vol.1 糸の誕生


◇おしらせ◇


布・生地の通販サイト:nunocoto fabric
◎商用利用可のデザイナーズファブリックが2,000種類以上!

SNSをフォローして最新情報を受け取ろう!

Line

アバター画像

兵庫県伊丹市出身。羊毛の紡ぎや織を習ったのをきっかけに、染織の楽しさに目覚める。丹波市に移住後、丹波布と出会う。以来、手で紡ぎ、草木で染めて織り上げる布にこだわり、日々制作に励む。陶芸家の夫と共に、ギャラリーAOをオープンする。 ウェブサイト http:// www.sankara-textile.com/

あわせて読みたい