一本の糸の旅 Vol.5 機に上げて「織り」へ

さて、この「一本の糸の旅」もいよいよ終盤です。
前回までで、綿花が糸になり、染められて、そして経糸で縞ができました。
>> 一本の糸の旅 Vol.4 経糸(たていと)で縞をつくる

これから糸は機にかけられて、布になる段階に近づきます。
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機にかかりました。綜絖(そうこう)通しの準備です。

縞のとおりに整経し、ちきり棒に巻かれた経糸を機にかけます。
そして、次の工程は“綜絖(そうこう)通し”と呼ばれるものです。
綜絖とは、経糸を上下に動かすための道具で、一枚の綜絖枠には数百本の綜絖がかかっています。
綜絖(ワイヤーヘルドとも呼ばれます)は、針金に輪っかのついた形状をしています。
複雑な模様で織る場合は、この綜絖枠が6~8枚ほどかかっていますが、丹波布の場合、一番シンプルな平織(ひらおり)なので、綜絖枠は二枚です。
この二枚の綜絖枠にかかっている綜絖の輪の中にそれぞれ交互に、糸の順番通りに糸を通していきます。
ここで糸の順番を間違えたり、綜絖に交互に糸を通すことをが抜けてしまうと、後でやり直すとき、とても面倒なことになるため慎重に。

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綜絖通し中。ひたすら糸を輪っかに通していく作業を、集中を切らさずに進めます。

綜絖通しが終わると、次は筬(おさ)通しです。
筬は、織る時にトントンと打ち込む部分です。
横長の枠の中に細い竹で何百本もの仕切りがされており、その間に糸を順番に通していきます。
仕切りの密度により、糸の密度が決まり、また糸数と密度により織る幅も決まってきます。
どの密度で、どの幅で織るのかによって、使う筬が変わってきます。

筬は、ステンレスのものと竹でできているものがあります。
私の使う筬は、竹でできている“竹筬”です。手紡ぎの糸を扱うので、打ち込んだ時にしなってくれる竹の方が、糸に負担が少なく、安心して打ち込めるように思います。

この竹筬ですが、一度は作る技術を持つ人が減り、新しいものの生産が危うい時期がありましたが、情熱を持った方々のお蔭で、最近竹筬を作ることのできる技術を持つ方が育ち、再び生産されるようになりました。
そうはいっても、量産できるものではなく、貴重な道具です。

新しいものも購入できますが、古道具屋さんなどに行くと、必ず使えそうな竹筬がないか、探してしまいます。
竹筬を作る技術は、幸い伝えられ残っていますが、手織りの布や技術が減っていくことに伴って、無くなっていく技術があるのだなと思います。

竹筬を手にする度に、染織だけではなく、手仕事の技術が無くなっていくことに付随して、静かに姿を消してしまった、道具や知恵、技術に思いを馳せてしまいます。

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筬通しの作業も糸の順番通りに慎重に。

通すという、地味な作業が続きますが、単純な作業なだけに心と頭を空っぽにして、好きな音楽をかけながら、ひたすら通していきます。

筬に糸が通ると、ようやく“織り”の工程に入っていきます。

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織りの作業。糸をピンと張り、踏み木(綜絖枠につながっているペダル)を踏んで糸を上下させます。

大雑把で、どこか抜けているところのある自分を信用していないので、何本織ってもこの確認作業は「間違っていませんように!」とあらゆるものにお願いしながら、行います。

さて、織るというのは、経糸に緯糸を入れ、布にする作業なんだなと今回改めて確認しました(今さらですが…)。
緯糸を入れることにより、今まではっきりと見えていた経の柄が、少し薄まるような印象を受けます。
また、丹波布の場合、緯を一色にし、経柄のみを強調したストライプよりも、格子柄にすることが多いので、織り始めの時点で、緯柄を決定しなければいけません。悩ましいです。

デザインの段階で、大きな雰囲気や表現したいものは決まるのですが、具体的に緯糸(よこいと)何本というように決めていくのは、時には困る作業でもあります。
なかなか決まらない時は、遠くから布を眺めてみたり、空を眺めてみたり、空(くう)をみて頭の中を眺めてみたりして、少し距離を置いて、表現したい雰囲気に戻って考えるようにします。

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ときには犬とじゃれてみたり…。

緯柄が決まると、次は緯糸を巻いていきます。
緯糸は、篠竹を短く切ったものに緯糸を巻きつけ、杼(シャトルとも言います)にセットして、入れていきます。

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織り作業には欠かせない、シャトル。

踏み木を踏んで、糸を上下に開きその間にシャトルを「シャっ」と通して、「トンっ」と打ち込み、踏み木を踏んで上下の開きを代え、また「トンっ」と打ち込む。
音でいうと「シャっ トンっ トンっ」」の繰り返しです。糸から布に変わる瞬間。柄ができあがる瞬間。毎回、ワクワクします。

ワクワクしすぎて、幅が変わらない様、目飛びがないよう、慎重に糸を見つめ、織り進みます。
ここでも、リズムが大切です。同じ調子で織ることができるよう、リズミカルに織っていきます。

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ここまで来ると、終わり(完成)が見えてきます。
終わりに近づいているので、気持ちは次の作品に向いています。
完成を楽しむ気持ちと、次へ向かう気持ちの入り混じった、とても前向きな時間です。

次回は、丹波布にとってとても大切な“つまみ糸”のお話と、織りあがった布の次なる旅を追いかけていきたいと思います。
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どこまでも蒼い、丹波の夏の空。

「一本の糸の旅」の一覧

一本の糸の旅 Vol.6 糸から布へ。布から暮らしの中へ。
一本の糸の旅 Vol.4 経糸(たていと)で縞をつくる
一本の糸の旅 Vol.3 染める
一本の糸の旅 Vol.2 紡ぎ、染めるまで
一本の糸の旅 Vol.1 糸の誕生


◇おしらせ◇


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兵庫県伊丹市出身。羊毛の紡ぎや織を習ったのをきっかけに、染織の楽しさに目覚める。丹波市に移住後、丹波布と出会う。以来、手で紡ぎ、草木で染めて織り上げる布にこだわり、日々制作に励む。陶芸家の夫と共に、ギャラリーAOをオープンする。 ウェブサイト http:// www.sankara-textile.com/

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