一本の糸の旅 Vol.2 紡ぎ、染めるまで
先月、綿から誕生した糸は、“かぶら玉”の状態のまま、仲間が増えるのを待ちます。
このかぶら玉ですが、一つ出来上がるのに着物用の細い糸だと、一日かかることもあります。
逆に太めの糸の場合は、一日で三つほどできます。
今回紡いでいるのは、着物用の細めの糸。機織りをしながら毎朝こつこつと紡いできました
“かぶら玉”が三つ揃うと、綛(かせ)上げをします。
これは、綛上げ器に糸をぐるぐると巻きつけていき、幾重もの大きな輪にする作業です。
“かぶら玉”のままだと、中の方まで染まらないので、染色準備の一番初めの作業とも言えます。
この綛上げですが、染色した後でこの綛の状態から糸を巻き取っていくため、巻き取りやすいように綛上げ器に巻いていきます。
私の布作りは、様々な工程の連続ですが、それぞれの工程が後の工程に影響するので、一つ一つの作業を大切にしないと、後で手間や時間が掛かることになってしまいます。
大雑把で、面倒くさがりで、待つのが苦手な私ですが、雑な作業のやっかいな結果について身を持って知っているせいか、布作りに関しては何故かじっくりと作業ができるようです。
仕事以外では、相変わらずてきとうで、待てませんが…。
綛上げ道具と向こうに見るのは犬のココさん
綛上げ後の糸は、撚りが戻らないように捩じって、染めたい量の糸が揃うまで置いておきます。
一綛で、だいたい50グラムほどです。
着物を織ろうと思えば、この綛が約20個必要になります。
家の事や織や他の仕事をしながらの毎日で、着物に必要な糸を紡ぐには、半年ほどかかってしまいます。
糸から作るこの布は、糸紡ぎに時間がたっぷりかかるので、時間を軸に考えると必要な糸がそろった時点で、作業は半分以上終わった事になります。
糸ができあがると、次は染色です。
染料になる、こぶな草です。友人の畑から毎年刈り取らせてもらっているもの。
草木染の染料は、全て家の周りに生えている草や木を使います。
主に使うのは、栗の実の皮、こぶな草、枇杷の枝葉、ヤマモモの木の皮、やしゃぶしなど。
人からいただいたり、自分で採ってきたものを使います。
芽(葉)を付け、花が咲き、実をつけるという草木の一年のサイクルの中で、染色に適した“採り時”というのがあります。
それは、草や木が一番力を蓄えて持っている時期。
実を付けた後などは、エネルギーをたくさん使っているので、染色には向いていません。
そんな採り時を見計らって、草や木を採取し、すぐに使わない場合は、保存のために乾燥します。
こぶな草夏が採りどきで、黄色に染まる染料です。
私の好きな染料の一つですが、農薬や除草剤に弱く、昔は畑の縁や畔に良く生えていたらしいのですが、最近はあまり目にしません。
そして、有機で野菜を育てている友人の畑には、たくさんのこぶな草が見られます。これを毎年、ありがたく頂戴しています。
染料は、私にとって財産のような物なので、染料を見つけるととたんに欲がむくむくと湧き、目の色を変えてゴンゴンと採ってしまいます。
お金を使わず、体を使って獲物を得るという感覚が楽しく、染料を手に入れた時は、とても嬉しくて、得をしたように感じます。
藍染めだけは、手紡ぎの糸を紺屋さんで染めてもらったものを使用します。
なぜかというと藍染めは煮て染める染色と違い、藍の葉を発酵させ、“すくも”という状態にして、それを再び発酵させ、染めるという工程が必要となるからです。
これは、温度管理が難しく、一度チャレンジしてみて、これは専門の技術の必要な仕事だな、と実感しました。
以来、藍染めはプロの手にゆだねることにしています。
また、紡いだ糸は染める前に、糸についた余分な汚れや、油分を落とす必要があります。
これを“精錬”と呼びます。
なるべく糸をきれいにし、油分を落とすことで色が入りやすいようにします。
また、撚りを止める効果もあります。精錬が終わった糸は、白さが増し、さっぱりして見えます。
ここからやっと、糸を染めていく工程に入ります。
木綿は、絹や羊毛といった動物性の素材と比べると、色素を吸収しにくく発色もあまりよくありません。その為に、下準備が必要になります。
なかなか染色本番にはたどり着けませんが、この準備段階も染色工程の大切な一つです。
綿から糸になり洗われて、きれいになった糸は、染色の準備を終えました。
来月は、いよいよこの生成りの糸が草木の持つ色に染まっていきます。
思うに、太陽の光の変化や、空を背景にした景色、毎日目にする色や色の組み合わせが私の作品に大きく影響を与えているようです。
印象的な色をそっくりそのままに染めることは出来ませんが、目にした景色や色の雰囲気を作品に写せたらと思い、春夏秋冬と、毎日空を見上げて暮らしています。
美しい丹波の四季の表情。見飽きることは、ない。