vol.4 『ペレのあたらしいふく』
このあの文庫が、とっておきの絵本を一冊ずつ紹介します。
赤ちゃんとの毎日に寄り添うような、あるだけで心がほっとするような絵本たちを、いつでも手に取れるところに置いてみませんか。
vol.4『ペレのあたらしいふく』
とつぜんですが、手づくりの服、といったらどんなものを思い浮かべますか?
赤ちゃんに作ってあげた小さなチョッキやズボン?
女の子なら夏のコットンワンピースや浴衣?
母の日にがんばって作ったギャザーエプロン?
どれも素敵ですね。
でも、この絵本の主人公、ペレのふくは、正真正銘100%の手づくりのふくなのです。
それはなんと、糸になるまえの、もわもわした羊毛の段階から自分で手に入れたふく。
もちろん自分の手だけでは無理ですよね。
周りの大人たちの手を借ります。手を貸すことで手を借ります。
ん? ちょっとややこしいですね。
ペレは大好きなこひつじの毛をかりとって、
近所の大人たちに(ときにはお母さんにも)、
「毛をすいてほしい」「いとに紡いでほしい」「糸を織ってきれにしてほしい」
などなど、順番にお願いをして回ります。
「おばあちゃん けを すいてくれない?」
「いいとも。 かわりに はたけの花に 水をやってくれるならね」
得意な人に得意なことを、と適材適所の理が身に付いているところは、
なかなかの才覚。実は経営者向きのペレくんかもしれませんね。
そして大人たちも、ペレを子ども扱いなんてしません。
「してあげてもいいけど、だったら代わりに○○しておくれ」
と、ちゃんと交換条件を出す。
それはいつも労働であること。ここがおもしろいなと思います。
働かないと、望みを叶えてもらえない。
今の大人たち(子どもは基本的にいつの時代も同じで、変わっていくのは大人かなと思いますが)は、
ついつい「○○できたら○○買ってあげる」という交換条件を出しがちで、
そうするとだんだん子どもたちもそれがないとやらない、なんてことになってくる。
でもそれってちょっとおかしいですよね。
はじめからすでに対等なバランスではない気がします。
お互いがしてほしいことをし合う。
そういうのが、もっとも自然で無駄がなく、
だれもが幸せになれる究極な方法なんじゃないかなと
あらためて気付かされます。
子ども向けの絵本、と思っていると足元をすくわれる、というのはこういう瞬間です。
だから絵本っておもしろいなと思います。
赤ちゃんのお世話から、農場の手入れまで、やれることは何でもやる、ペレくん。
さて、たくさん働いたペレは、
かけがえのないものを手に入れます。
手仕事ならではの、世界にひとつの完全オーダーメイドのふく。
ひつじくんもとっても嬉しそう!
一枚の服が仕立て上がっていく工程の勉強にもなりますが、
もっと大切なことを教えてくれる一冊ですよ。
作者はエルサ・ベスコフ。スウェーデンを代表する絵本作家です。
北欧らしく、自然をモチーフにした作品が多く、どれも淡くやさしいタッチの美しさを堪能することができます。
ファンタジックで可愛らしい作風は、今でも多くのファンを魅了しています。
-刺繍で描く、『ペレのあたらしいふく』の世界-
「ペレのふくがハンガーにかかっているところです。ペレのお顔がちょっと難しかったので…」
「ひつじさんのもこもこ毛を表現するために、“ペキニーズ・ステッチ”という刺し方をしました。縫目に糸をたるませながらくるくるとすくっていく方法です。
ひつじの刺繍をするなら、このステッチで!と、決めていました。
ペレ君が毛を刈り取った後なので、もこもこしすぎないように…。」
============================
『ペレのあたらしいふく』(福音館書店)
エルサ・ベスコフ/さく・え
おのでらゆりこ/やく
============================