vol.2『パンやのくまさん』
このあの文庫が、とっておきの絵本を一冊ずつ紹介します。
赤ちゃんとの毎日に寄り添うような、あるだけで心がほっとするような絵本たちを、いつでも手に取れるところに置いてみませんか。
vol.2 パンやのくまさん
― それから、くまさんは みせに かえり、おみせばんをしました。
きんじょのひとたちは、くまさんが とても れいぎただしいので、
くまさんのみせに くるのが だいすきです。
くまさんは、いつも わすれずに、
「おはようございます」とか、「いらっしゃいませ」とか、
「ありがとうございます」と いいます。 ―
このあの文庫にやってきてくれるのは、ほとんどがちいさな会員さん(子ども)たち。
でも、まだ自分では選べない、一人では来られない子たちは、大好きなお母さんと一緒に来ては本棚から絵本をさっと取って、お母さんに「よんでー!」とせがみます。
自分のおうちで読むのとは、また違って新鮮なのかもしれませんね。
さて、先日。
何度も何度も『パンやのくまさん』を返却してはまた借りていく2歳の女の子のお母さんから、
「うちの子はこの本がほんとに大好きみたいで、私も文章を覚えるぐらい読まされました。なんていうか、すごく普通のことが描かれているだけなのに、どうしてこんなに好きなんでしょう。」
と言われて、
うん、うん。それが答えですよ!
と嬉しくなりました。
子どもの日常って、毎日がワンダーランド! というイメージがあるかもしれませんが、
それは子どもの内面のこと。
心の中では、一つの種からたくさんの芽が出て枝葉になって花が咲いて…と、たしかに果てなきストーリーが日々生まれているのだと思います。そうあってほしいなとも思います。
でも。
外的なところで見れば、子どもの日常は、案外同じことのくり返しなのですよね。
毎日同じ時間に起きて、同じ場所に行く。
毎日同じお友達と先生が待っていて、同じ時間にご飯を食べる。
そして同じ時間に眠くなって、、おやすみなさい。
自分が毎日、同じ事のくり返しの中で生きていることを、
そしてそれが“心落ち着く”ものであることを、
子どもながらに、もうちゃんと判っているものです。
だから、自分と同じように、
毎日のリズムが“ちゃんと整っていて”“普通の”くまさんに、圧倒的な信頼感を寄せるのではないかなと、そう思います。
子どもにとって(大人にとっても)誠実なヒーローの登場です。
はたらきもののくまさんは、表紙の見返しで、もうすでにはたらいています!
それに、このくまさんは、とってもはたらきもの。
自分の身の回りのことを自分でこなす姿もスマートでチャーミングなのですが、
自分の暮らしというものの中に、
はたらくこと、労働することが、とても自然に馴染んでいます。
はたらくことで、周りの人たちとどう関わっているのか、
ひとつひとつが丁寧に描かれています。
大きくてのんびり系のくまさんではありません。シャープな身のこなしでいつもテキパキ(?)してます。見習いたいです…
毎日の売り上げはその日のうちに勘定する、しっかりもののくまさん。
子どもの「うわー!」とか「きゃー!」とか、驚いたりゲラゲラ笑う顔が見たくてついつい選んでしまう本。
予想を裏切るような大どんでん返しのあるラストや、ワクワクする摩訶不思議な展開も、ときにはいいでしょう。
ただ、そのときのざわざわとした気持ちのひだは、
「興奮」を感じさせてくれるものではあっても、
「安心」という形には変わってはくれません。
この絵本を読んでいる子どもは、
朝起きていつもと同じようにはたらいて夜寝床につく、このくまさんに自分を重ねます。
また、今日一日をつつがなく終えられた、くまさんの平和なよろこびをいっしょに感じて、
それで安心して絵本を閉じることができるのです。
今日がうまくいったなら、明日もきっと幸せだろうな。
そんなことを思い出させてくれる1冊です。
-刺繍で描く、『パンやのくまさん』の世界-
実直で優しいくまさんのイメージそのまんま シンプルなパン!
「刺繍糸の1本どりと2本どりを組み合わせて、
くまさんの毛並みやパンのふっくら感をそれぞれ表現しました。」
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『パンやのくまさん』(福音館書店)
フィービー・ウォージントン セルビ・ウォージントン/文・絵 まさきるりこ/訳
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