一本の糸の旅 Vol.3 染める

ふわふわとした綿は、紡がれて糸になり、洗われ、染める準備が整いました。
今回は、その白い糸が、植物の持つ色素を吸い上げて染まっていきます。

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ここで糸を染めます

糸を染める時、大体一種類の染料を使うことが多く、場合によりますが媒染をかえて2~3種類の色に染めることもあります。
今回の染料は、栗。

丹波布は、身近にある植物を染料にすることが多く、“丹波栗”で有名な通り栗の皮を昔からよく使います。
イガの部分でも染まりますが、鬼皮を使います。
この鬼皮ですが、剥くときに水に漬けると、色素が流れてしまうので、固い皮のまま剥いたものを使います。

(ただ、水に漬けたものも全く使えないわけではなく、濃く染まらないというだけなので、いただくときは大切な染料として薄目の色を染める時に使わせていただいています)

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茶色の鬼皮を使います

染料は、生のものや乾燥させたものを使います。
今回使う栗の皮は、秋にいただいたのを乾燥して、保存していたもの。
栗の皮むきはなかなか大変で、皮むき道具“くりくりぼうず”を使っても、一人ではたくさんたまりません。
昨年、伯母から大量の皮が届いて、大喜びしました。毎年、秋になると栗の実ではなく、皮をもらって喜んでいます。

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栗の皮を煮出しています

この栗の皮ですが、まずお湯でぐつぐつと焚いて染液を煮出します。
大きなお鍋に入れて、たっぷりのお湯で30分ほど煮出すと、染液が取れます。
これを2、3回繰り返します。煮出す順が後になるほど、染液は薄くなっていきます。
葉や草の場合は、多くて3回まで、木の皮になると、5,6回に出しても色素が残っていることがあります。
今回は3回煮出して3番液まで取りました。

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染液が煮出せたら、一晩置きます。
すぐに使うより、一晩置くことで空気に触れ、酸化して染液の赤みが増したり、細かい不純物が沈殿して染液がすっきりします。

そして、翌日。煮出した染液を大きなお鍋に入れ、温め、濡らした糸をそこに入れ徐々に温度を上げていきます。
糸は、ムラにならないよう均一に染めるのですが、そのためには糸を絞ってさばくという作業を繰り返します。

湯気のもうもうと立つ染色場で、糸をお鍋から出し、さばいてまたお鍋に戻すという作業は、蒸気になった植物の力を全身にかぶっているようで、とても気持ちの良いものです。

夏は汗をぶるぶるかきながら、冬は土間の寒い染色場で蒸気の暖かさを感じながら染めます。
染液のにおいや、蒸気の温度を感じながら染める作業は、とても“身体的”で大好きな作業の一つです。

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冬の染色風景です

お鍋に入れ、絞ったりさばいたりを繰り返すと糸が、少しづつ色づいてきます。
この作業の後は、熱い染液に糸を浸したまま、ゆっくりと一晩冷まします。
この“放冷”という工程によって、色をしっかりと糸に入れこむことができるようです。
木綿の糸は色素が入りにくく、また草木で染めると、年月を経て褪色していくので、私はなるべく、色をしっかり糸に吸ってもらうよう、日をおき、糸を休ませながら、この工程を何度か繰り返します。

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少し濃くなります

この染色の第1段階が済むと、次は媒染です。
媒染は、色素の定着と発色の効果があります。
第1段階で染まった糸を媒染液につけると、発色してさらに色が濃くなったり、鮮やかになったりします。この色が変わっていく様は、魔法のようで毎回ワクワクします。

今回は、石灰液を媒染剤に使います。媒染剤は、石灰、みょうばん、おはぐろ(錆びた釘から鉄分を抽出したもの)の3種類です。台所や畑で使えるもの、生活の中にある物です。
石灰液を媒染剤として使うと、茶色に発色してくれます。
媒染後は、糸をしっかり洗いしばらくの間干して、空気にあててやります。
そして、温めた染液に戻し温度を上げ、絞ってさばいて、お鍋に戻しを繰り返し、熱い染液とともに徐々に冷まします。

最後は、何度も水をかえながら糸をしっかりと洗います。
洗った後、竿に糸を並べて干すと染色の作業が終わります。

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栗の皮で染まった糸

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こぶな草で染めたり、染め重ねた糸

糸が乾くと、染まった直後より色が薄く見えるので、乾ききった糸を見て仕上がりかどうかを判断します。
染色の作業は、重い鍋を持ち上げたり、ざぶざぶ糸を洗ったりといった身体を使うと同時に、染液の色、染まった糸の色を見ながら、止め時を判断するという視覚や感覚が大切になります。
動きながら、心静かに色を見て、タイミングを見極めるといった、静と動が同時進行で進む感じです
。蒸気の熱さや水の冷たさを感じ、染料を煮出すときのにおいを感じ、色をじっと見る。この身体や感覚を全部いっぺんに使う感じが好きで、染色になると毎回張り切ってしまいます。

そして、煮たり、染液に漬けたり、糸を休ませたりといった、“待つ”時間が度々あり、掃除や洗濯、また織り、紡ぎといった仕事や家事をしながら行える作業なのも、良いなと思います。かつては、台所仕事の傍ら、主婦たちが糸を染めていたという話も十分納得ができます。

身の回りのものを使い、日々の生活の中で染め、様々な植物の色を糸にうつす染色は、私にとって、生活の中にすっと溶け込み、肩肘張らずにできる、心浮き立つ作業です。

毎日の生活の中にある、小さな嬉しいイベント。どこか季節の果物をジャムにすることと似ているように思えます。(お鍋は、重いですが、、、、)。

次回は、染まった糸を並べ、縞を考え、織の準備に入っていく段階に進みます。

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「一本の糸の旅」の一覧

一本の糸の旅 Vol.6 糸から布へ。布から暮らしの中へ。
一本の糸の旅 Vol.5 機に上げて「織り」へ
一本の糸の旅 Vol.4 経糸(たていと)で縞をつくる
一本の糸の旅 Vol.2 紡ぎ、染めるまで
一本の糸の旅 Vol.1 糸の誕生


◇おしらせ◇


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兵庫県伊丹市出身。羊毛の紡ぎや織を習ったのをきっかけに、染織の楽しさに目覚める。丹波市に移住後、丹波布と出会う。以来、手で紡ぎ、草木で染めて織り上げる布にこだわり、日々制作に励む。陶芸家の夫と共に、ギャラリーAOをオープンする。 ウェブサイト http:// www.sankara-textile.com/

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